東京高等裁判所 昭和34年(う)125号 判決
被告人 中川道代
〔抄 録〕
当裁判所は職権を以て原判決の事実認定の当否について調査すると、原判決は被告人は石川善一郎、松本茂男及び岡本淳等と共謀の上、宇都宮市曲師町三千百七十一番地飲食店「大江戸」で飲食していた南部平より金員を強取することを企て、被告人が言葉巧みに南部に言い寄り同人を同店より連れ出し、静かな旅館に案内すると称して同市八幡山公園の方向に誘い、その後を追尾する右石川等から合図を受けながら右八幡山公園南側正面登り口附近にさしかゝると、右石川、松本、岡本等が南部に対し原判示の如き暴行を加え、その反抗を抑圧した上、同人から現金約四万五千円を強取し、その際同人に対し原判示の如き傷害を負わせたものと認定し、刑法第二百四十条前段、第六十条により処断しているが、記録を調査し当審でした事実取調の結果を併せ考察すると、被告人は右石川等より南部に酒でも飲ませて貰うから同人を「大江戸」から連れ出してくれと頼まれ同人等が南部に因念をつけ金員を喝取するものであることを知りながらこれを承諾し、言葉巧みに南部に言い寄り同人を「大江戸」より連れ出し、同人と共に途中パチンコ屋で遊戯したり、すし屋で飲食したりした後、右石川等と合図しながら南部を同市八幡山公園の方に誘つて行つたところ、これに追尾して来た右石川等三名は南部に暴行を加え金員を奪取せんことを共謀し、原判示場所にさしかゝると、石川が突如馳け抜けて被告人と共に歩いていた南部の前に立ち塞がり、同人に対し「俺の女をどうする気か」などと申向け、やにわに同人の顔面を殴打し、続て松本及び岡本も石川と共に原判示の如く暴行を加えその反抗を抑圧した上、南部所有の現金約四万五千円を強取し、その際同人に対し原判示の如き傷害を負わせたもので、被告人は右石川等が南部に因念をつけ金品を喝取するものであることは知つていたが、同人等が原判示の如く南部に暴行を加え金円を強取することについては全くこれを知らなかつたことが認められる。然らば原判決が被告人は右石川等三名と南部よりその所持金を強取しようと共謀し、原判示所為に出たと認定したのは事実の認定を誤つたものであり、その誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。
よつて量刑不当の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十二条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により更に次のように判決する。
罪となるべき事実
被告人は新制中学を卒業後家事の手伝をしていたが、昭和三十一年頃宇都宮市馬場町の盛り場で当時街の不良として顔をきかしていた中川三男と知り合い、次第に懇ろとなつて昭和三十二年四月頃から事実上の夫婦関係を結び、昭和三十三年八月婚姻の届出をしたが同年一月頃は同市内の安宿に宿泊し、生活に困窮しながら夫婦とも正業につかず無為徒食していたものであるが、昭和三十三年一月二十五日夜三男と共に同市曲師町三千百七十一番地飲食店「大江戸」こと星千代方で飲酒している際、三男の舎弟分である石川善一郎、松本茂男、岡本淳等に会い、同人等から同店で飲食していた南部平に酒でも飲ませて貰うから同人を「大江戸」から誘い出してくれと頼まれるや、右石川等が南部に因念をつけ金品を喝取しようとしているものであることを知りながらこれを承諾し、言葉巧みに南部に言い寄り、同人を「大江戸」より連れ出し、同人と共にパチンコ屋で遊戯したり、すし屋で飲食したりした後、更に南部の意に従うかの如く装い静かな旅館に案内すると称して午後九時頃同人と共に同市塙田町六百四番地先八幡山公園の方向に向い、被告人等を追尾する右石川等から秘かに合図を受けながら前記公園南側正門登口附近に差しかゝつたが、一方右石川等三名はその頃右南部に暴行を加え同人の所持金を奪取せんことを共謀し、石川が突如馳け抜けて被告人と共に歩いていた南部の前に立塞がり同人に対し「俺の女をどうする気か」などと申向け、やにわに同人の顔面を殴打し、続いて松本及び岡本も右南部の顔面、腰部等を手拳或は長さ約四十五糎位の棒で乱打する等の暴行を加えその反抗を抑圧した上、同人より現金約四万五千円を強取し、その際右暴行により右南部に対し、全治約二週間を要する全顔面、右前額部及び右頭頂部打撲傷、右内[月皆]部及び右頭頂部裂傷の傷害を負わせたが、被告人は当時右石川等が南部より金品を喝取せんとしていることは了知していたが、右のように暴行を加え金員を強取せんとしていたことは知らなかつたものである。
証拠の標目<省略>
法令の適用
法律に照すと、判示所為は刑法第二百四十条前段第六十条に該当するのであるが、被告人は右犯行当時恐喝の犯意しかなかつたのであつて、右石川等の本件所為は被告人の予想しなかつたところであるから、被告人に対しては同法第三十八条第二項に従い軽い同法第二百四十九条第一項の刑責を負わせることとし被告人は現在成年に達しているから定期刑を科すべく、所定刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、当審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(岩田 渡辺辰 司波)